【要注意】ブロックチェーン法務|知らないと危険な「法律リスク」‐マネーロンダリング‐

法律
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ひろじぇー
ひろじぇー

こんにちは。ひろじぇーです。

今日は法科大学院生らしく、法律の問題に触れてみます。

マネーロンダリングとは?その基本とブロックチェーンの関係性

マネーロンダリング、つまり「資金洗浄」とは、犯罪や不正行為によって得た資金を合法的なもののように見せる行為です。例えば、麻薬取引で得た現金をいくつもの銀行口座や投資を通じて洗浄することで、合法収入に見せかける、といったイメージです。

ブロックチェーンの登場によって、この問題は新たな次元を迎えています。例えば、暗号資産ビットコインは、その透明性が高く取引履歴を誰でも確認できる一方で、ウォレットアドレスは個人情報と直接紐づかないため匿名性が保たれます。この特性が、善意の取引だけでなく、犯罪者による不正資金の洗浄にも利用されるリスクを生んでいます。
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ブロックチェーン技術が抱えるマネーロンダリングのリスク

匿名性の高い暗号資産の利用
ビットコインなどの主要な暗号資産は、取引が公開されているものの、ウォレットの所有者が特定されない仕組みです。このため、資金の流れが追跡できても、実際の当事者を特定することが難しい場合があります。

分散型取引所(DEX)の悪用
DEXでは、中央集権型取引所と異なり、KYC(顧客確認)が行われない場合があります。これにより、不正資金が規制の網をかいくぐって取引されるリスクが高まります。

トルネードキャッシュなどのミキシングサービス
複数の取引を混ぜ合わせて追跡を困難にするミキシングサービスが存在し、これが犯罪資金の洗浄に利用されるケースもあります。

各国の規制対応|マネーロンダリング防止策

アメリカ:厳格な規制と法執行
アメリカでは、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が暗号資産取引所に対してKYCやAML(アンチ・マネーロンダリング)措置を義務付けています。また、違反した企業には巨額の罰金が科されることもあります。
https://www.fincen.gov/sites/default/files/shared/IAFinalRuleFactSheet-FINAL-508.pdf

EU:包括的な規制「MiCA」
EUは2024年施行の暗号資産市場規制(MiCA)で、暗号資産取引所やウォレットプロバイダーに対してAMLの実施を義務化するなど、厳しい規制を進めています。
https://www.esma.europa.eu/esmas-activities/digital-finance-and-innovation/markets-crypto-assets-regulation-mica

日本:改正資金決済法の適用
日本では、暗号資産交換業者に対してAML/CFT(テロ資金供与対策)の実施が義務付けられており、金融庁が監督しています。また、暗号資産の取引における顧客確認を徹底しています。
https://www.fsa.go.jp/policy/amlcftcpt/index.html

ビジネスにおけるリスクと対策

暗号資産を取り扱う企業や個人は、以下のようなリスクと対策を認識することが重要です。

リスク:規制違反による罰則と評判リスク
AML対策を怠った場合、罰金や営業停止といったペナルティを受ける可能性があります。また、法令違反が公になることで、企業の評判にも深刻な影響を与えます。

対策:KYCとAMLプログラムの導入
暗号資産取引所や関連サービスを運営する場合、KYCを通じた顧客の特定や、AMLプログラムの実施を行う必要があります。これにより、疑わしい取引を迅速に特定し、報告する体制を整えます。
先ほど述べたように、KYCやAMLは世界各国の金融当局が要求する内容ですので、何よりも最優先で体制を整える必要があります。

対策:規制動向の継続的なモニタリング
各国の法規制は急速に変化しています。これに対応するため、定期的に規制の最新情報を確認し、自社のビジネスプロセスを適応させることが重要です。

未来に向けた課題と展望

匿名性とプライバシーのバランス

昨今の規制強化によって、取引所やウォレットサービスに対するKYC(顧客確認)やAML(アンチ・マネーロンダリング)対応が義務化されていることは、この記事でもなんでもお伝えしている通りです。一方で、ユーザーのプライバシーを守る必要性も依然として高まっています。例えば、ヨーロッパではGDPR(一般データ保護規則)によって個人情報の扱いに厳しい基準が設けられています。

これに対して、「ゼロ知識証明(ZKP)」のような新技術が注目されています。ZKPを利用すれば、個人情報を開示せずに身元の確認が可能となり、プライバシーを保ちながら規制を遵守する取引が実現できます。例えば、PolygonはZKPを活用したソリューションを発表しており、これがブロックチェーンとプライバシー保護を両立する未来の鍵となる可能性があります。
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AIとブロックチェーンの融合

マネーロンダリング対策において、AI(人工知能)の活用が急速に進んでいます。具体例としては、異常な取引を検知するAIモデルの開発です。AIは過去の取引データを学習し、通常のパターンから逸脱した取引(例:特定の地域で突然大量に取引が発生するケース)をリアルタイムで識別します。

例えば、暗号資産取引所ChainalysisはAIを活用して不正取引を追跡する技術を提供しており、これによってマネーロンダリングの可能性を迅速に特定できるようになっています。この技術は将来的に個人間のウォレット取引や分散型取引所にも適用される可能性があります。
https://www.chainalysis.com/blog/chainalysis-alterya-announcement/

グローバルな規制の標準化

現在、国ごとに規制内容が異なるため、規制の「抜け穴」が発生しているのが現状です。
例えば、ある国では厳しいAML規制がある一方で、別の国では暗号資産取引所がほとんど規制を受けずに運営されています。この結果、規制の緩い地域に資金が流れ込む現象が生じています。

こうした課題に対処するため、国際的な規制の標準化が進むと考えられます。FATF(金融活動作業部会)はすでに「トラベルルール」を発表しており、暗号資産取引所が顧客情報を共有する仕組みを提案しています。これにより、各国が連携して犯罪資金の流れを追跡しやすくなり、グローバルな規制網が整備される可能性があります。
※トラベルルールとは、すごく簡単にいうと「お金の送り主と受け取り主をちゃんと誰かを明らかにしてね!」というルールのことです。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230526-2/00.pdf

CBDC(中央銀行デジタル通貨)の普及と規制

さらに、各国で進む中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入が、マネーロンダリング対策に新たな道を開くと期待されています。CBDCは国家が発行するデジタル通貨であり、完全に管理された環境下で取引が行われるため、不正資金の洗浄が困難になる可能性があります。

例えば、中国はすでに「デジタル人民元」をテスト段階から本格展開へと進めています。このように国家が発行元となるデジタル通貨は、マネーロンダリングや犯罪資金の流れをリアルタイムでモニタリングする手段として注目されています。ただし、この動きには国家による個人の取引監視が強化されるというデメリットがつきまといます。
http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2022/2022aut04.pdf

NFTやメタバースの台頭による新たな課題

NFT(非代替性トークン)メタバースといったブロックチェーン技術の応用分野も、マネーロンダリングに利用されるリスクがあります。例えば、高額なNFTを購入した後、別のアカウントに売却することで、不正資金を正当化する手法が指摘されています。

さらに、メタバース内での仮想不動産取引やゲーム内通貨が、規制の網を逃れたまま不正資金に利用されるケースも考えられます。これらに対応するには、NFT取引プラットフォームやメタバース事業者がKYCやAML措置を導入する必要があります。例えば、OpenSeaはすでに違法取引を監視する仕組みを強化しています。
https://x.com/opensea/status/1557487555330723840

結論

技術の進化に伴い、マネーロンダリング対策も進化しています。ゼロ知識証明やAI技術、CBDCの普及、そしてグローバルな規制標準化といった新たな解決策が登場しつつあります。一方で、NFTやメタバースなどの新分野における課題もあり、柔軟な対応が求められるでしょう。

未来を見据えて、これらの新しい展望に対応するためにも、法律と技術の両方を深く学び続けることが、企業や個人にとって重要です。今後もこのブログで最新の情報を追いながら、安全な取引環境の構築に取り組んでいきましょう。

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